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2025.01.28

犬の胆嚢摘出術|手術の概要、成功率・死亡率について獣医師が解説

犬の胆嚢摘出術|手術の概要、成功率・死亡率について獣医師が解説

「健康診断をしたら愛犬が胆嚢粘液嚢腫と診断され手術を勧められた」

「元気なのに手術が必要な理由がよくわからなかった」

「手術ではどんなことをするのか、リスクや死亡率が知りたい」


こんな悩みを抱えていないでしょうか?


今回は、胆嚢摘出術の手術をするか悩まれている飼い主様に


  • 胆嚢摘出術とは何をする手術なのか

  • どんなときに必要な手術か

  • 手術をするリスク・しないリスク


について解説します。


ぜひ最後までお読みいただき、手術について考える参考にしてください。

胆嚢摘出術とは?

胆嚢摘出術とは、名前の通り胆嚢を摘出する手術です。




胆嚢は肝臓で作られた消化酵素(胆汁)を貯蔵・濃縮する役割を持つ袋状の臓器です。

胆汁は黄色いサラサラした液体で、脂肪の消化を助ける役割があります。

食事により胆嚢が刺激されると、胆嚢が収縮し、胆汁が総胆管を通って十二指腸に流れ込みます。


「胆嚢を摘出してしまっても健康上の問題はないの?」


という質問をよく受けますが、消化酵素は肝臓から直接流れ込むため、問題なく過ごすことができるでしょう。


胆嚢摘出術が必要な病気は?

犬で胆嚢摘出術が必要な主な病気は、胆嚢粘液嚢腫、胆石症、胆嚢破裂です。

病気によって胆嚢摘出術を行う緊急度やリスクは変わります。

ここからは、それぞれの病気について、詳しく解説していきます。


胆嚢粘液嚢腫

胆嚢粘液嚢腫とは、胆嚢にかたくネバネバしたゼリー状の粘液物質が溜まり、胆嚢が収縮できなくなる病気です。

進行すると胆嚢の壁が薄くなり、薄くなった場所から胆汁が漏れ出たり、胆嚢が破裂すると、胆汁が周囲の組織を消化して、腹膜炎や膵炎を起こします。


基本的には無症状で進行し、胆嚢の通過障害が起こると、嘔吐や下痢、黄疸(白目や皮膚が黄色くなる症状)などが見られます。

胆嚢破裂を起こし腹膜炎や膵炎を起こすと、激しい腹痛、発熱、ショック状態を起こし、ぐったりと動かなくなったり、意識を失ったりし、亡くなってしまうこともあります。


無症状とはいえ、胆嚢粘液嚢腫と診断された時点で胆嚢が破裂する恐れのある危険な状態です。

当院では、老齢や基礎疾患など麻酔のリスクが高い場合を除き、胆嚢粘液嚢腫の犬には早期の胆嚢摘出術を勧めています。

胆石症

胆石症は、胆嚢や胆嚢から十二指腸に胆汁を運ぶ胆管に結石ができる病気です。

結石は胆汁の成分が固まってできたもので、多くは胆嚢内にあり、胆石と呼ばれます。

胆石は胆嚢炎の原因になることや、胆管に詰まり通過障害を起こすこともあります。


基本的には無症状ですが、進行すると嘔吐や食欲不振、腹痛、下痢、黄疸などが見られます。

重症化すると胆汁の通過障害から胆嚢や胆管が破裂し、腹膜炎や膵炎からショック状態に陥ります。


初期であれば胆汁の流れをよくする内服薬や、食事療法で経過をみることもあります。

しかし、胆石が胆管に詰まっている場合、胆嚢破裂の恐れがある場合、黄疸などの症状が見られる場合、血液検査の値に異常がある場合など、胆嚢摘出術が必要になるケースもあります。

胆嚢破裂

胆嚢破裂は、胆嚢が破裂して中の胆汁がお腹の中に出てしまった状態です。

周囲の組織が胆汁に消化され、腹膜炎を起こし、ショック症状から死亡してしまいます。


ショック症状を起こしていることが多いため、術前に輸液療法や抗菌剤の投与などを行い状態を安定させてから緊急手術を行います。

手術では、破裂した胆嚢を摘出したうえで、腹腔内洗浄により周囲に出てしまった胆汁を取り去る必要があります。

周術期死亡率は40〜60%と高く、リスクを伴う手術ですが、手術をしない限り治癒することもありません。

手術のリスクは?

胆嚢摘出術の成功率は70〜80%と言われています。

周術期(手術から手術後の回復期までの期間)の死亡率は、無症状で5%ほど、症状がある場合で20%ほど、胆嚢破裂をした場合は40〜60%ほどです。

胆嚢摘出術は他の手術と比べればリスクの高い手術です。

無症状なのに手術をするべきなのか悩まれる飼い主様も多いですが、症状が出てから、胆嚢破裂してからの手術はより高いリスクを伴います。

できる限り低リスクで手術をするために、当院では無症状のうちに手術を行うことをおすすめしています。


考えられる合併症は術後は膵炎、腹膜炎、腸閉塞(イレウス)、播種性血管内凝固、二次感染などです。

術後はこれら合併症の予防や早期発見のために、抗菌剤や抗炎症剤の投与や疼痛管理を行いながら、血液検査や超音波検査で経過を観察します。

手術をしないとどうなるの?

胆嚢粘液嚢腫や胆石症に対し、胆汁の流れをよくする薬や肝臓の働きをサポートする薬による内科治療を行うこともあります。

ただし、これらの病気に対する内科治療は確立されておらず、内科治療のみで治癒することは少ないでしょう。


胆嚢粘液嚢腫や胆石症は、胆嚢破裂のリスクのある状態です。

無症状だからと様子を見ているうちに胆嚢が破裂してしまうと、ショック症状に陥りあっという間に亡くなってしまうことも。

このため、胆嚢破裂の恐れがある場合は、リスクの少ない無症状のうちの胆嚢摘出術をおすすめしています。

まとめ

今回は胆嚢摘出術について、手術の概要、手術が必要になる病気、手術のリスクや術後について説明しました。


胆嚢摘出術が必要になる病気のほとんどは無症状で進行するため、発見が遅れがちです。

飼い主様が気付かぬ間に進行し、胆嚢が破裂するとあっという間に重篤化して亡くなってしまうことも。

胆嚢摘出術はリスクのない治療法ではありませんが、無症状のうちに手術をすることでそのリスクを下げることができます。

元気そうに見えても病気を抱えていることがありますので、定期健診などで早期発見をし、異変があれば早めに対処してあげましょう。


胆嚢摘出術に関して質問やご相談があれば、獣医師がお答えしますので、当院にご相談ください。


長野県伊那市の動物病院

伊那竜東動物病院

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